■建築研究資料 |
No.162号(2014(平成26年)8月) |
<概要> | |||||||||||||||||||||||||||||||
建築物の地震時応答を評価する方法として、加速度応答スペクトルに基づく方法がある。免震建築物においても、限界耐力計算に準ずる方法が示され、平成12年建設省(現国土交通省)告示第2009号(以下、告示2009号)では、加速度応答スペクトルによる免震層の応答を算定する方法を採用している。免震建築物は、1自由度系に置換され、等価周期、等価粘性減衰定数を用いて、地震応答を算定される。免震建築物の場合、上構造を剛体と仮定し、免震層より上部の全質量を等価質量とし、免震層に設置される免震部材(または免震材料と呼ぶ)の力学特性に基づき、免震層を等価剛性と等価粘性減衰定数にモデル化される。この方法では、免震層より上部の部分はモル化されないため、上部構造の地震層せん断力が直接評価できず、別途、算定式が必要となる。 免震部材の支承材(上部構造の自重等を支える部材)として、天然ゴム系積層ゴム、鉛プラグ入り積層ゴム、高減衰ゴム系積層ゴム及び弾性すべり支承などが主に使われており、また減衰材(ダンパー)としては、鋼材、鉛、及びオイルダンパー等が使われている。近年は、上部構造の高層化に伴う免震部材の大型化、地震時の加速度応答を低減されるための免震建築物の長周期化のために、水平抵抗の非常に小さな支承材や、また地震時の免震層変位低減のための各種ダンパーを組み合わせて使用するなど、免震建築物の設計手法や免震部材の開発が積極的に行われている。 このような背景から、告示2009号が施行された時代と比べ、免震建築物の地震応答による上部構造の地震層せん断力も上部構造や免震層の条件により大きな差が生じることが考えられる。そこで、建築基準整備促進事業「12免震建築物の基準の整備に資する検討(平成20〜21年度)、事業主体:清水建設、小堀鐸二研究所、日本免震構造協会」において、免震建築物の地震時応答に影響すると考えられるパラメータを設定し、時刻歴応答計算を通して、上部構造の地震層せん断力の評価を行った。さらに、その結果に基づいて、上部構造の地震層せん断力係数の設定の方法をまとめた。 本資料の概要を示すと、以下のようになる。 第1章は、上部構造の地震層せん断力の見直しを行うに当たり、過去10年程度の免震建築物を取り巻く状況の変化などをまとめるとともに、免震建築物の地震層せん断力係数の見直しの目的や検討体制について示した。 第2章は、2005~2008年に設計が行われた免震建築物に関する情報を収集し、免震建築物の特徴を整理し、本検討で設定する各種パラメータの範囲の参考とした。整理項目としては、建物用途、上部構造の特性(階数、構造、固有周期、減衰定数)、地盤条件、免震部材の種類・モデル化の方法及び利用実績、免震建築物の地震応答(免震層最大変位、上部構造の最大加速度、層せん断力)等である。また実際に設計された免震建築物の地震層せん断力係数の情報を収集し、設計時の地震層せん断力係数と地震応答解析による地震層せん断力係数の比較を行った。 第3章は、免震建築物の地震応答計算を行い、上部構造や免震層の応答を求めた。地震応答解析に必要な解析パラメータとして、上部構造(階数、1次固有周期、減衰定数)、免震層(2次剛性による免震周期、降伏せん断力係数、降伏変位)、地震動(表層地盤の増幅特性)の各条件から、いくつかの代表的なケースを設定した。上部構造の1次固有周期、免震建築物の等価周期、初期剛性(免震層の1次剛性)に基づく免震周期、免震層の荷重変形関係を主なパラメータとして、地震層せん断力の高さ方向の分布係数を整理した。さらに、各パラメータによる応答結果のばらつきも考慮した回帰式を求め、回帰式の適合性を検討した。また同時に、告示2009号第6に基づく方法による地震層せん断力の高さ方向の分布係数も計算し、回帰式との比較を行った。 第4章は、免震建築物の地震層せん断力の高さ方向の分布係数の既往の設定法を参考として、新たな設定法の提案を行い、その適合性について検討した。提案の1つは、告示2009号による結果に対する補正係数(割増率)とすることであり、他の2つは、地震層せん断力の高さ方向の分布係数を新たに設定する方法とし、次の2つの方法を検討した。 1)上部構造の1次固有周期に対する初期剛性による免震周期の比及び免震層の等価粘性減衰定数を用いる方法 2)上部構造の1次固有周期及び免震層の等価粘性減衰定数を用いる方法 第5章に、本検討の内容をまとめるとともに、提案法の適用に当たっての注意点を示した。 1)建築研究所 2)千葉工業大学 3)清水建設 4)明治大学 | |||||||||||||||||||||||||||||||
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