■建築研究報告 |
住環境の観点からみた敷地コントロールに関する研究 河中 俊 建築研究報告 No.117, 1988, 建設省建築研究所 |
<概要> |
本研究は、住環境の形成・維持・改善を図るために、建築指導行政・都市計画行政における敷地コントロールのあり方を考察する目的のものである。わが国における市街地の物的コントロール手段の中心である建築基準法において、敷地は極めて重要な位置を占めているにもかかわらず、現行制度は色々な点で不備であるとの認識の下に、「敷地に関する物的コントロール」である敷地コントロールを定義し、各種の検討を行った。 「第4章 敷地コントロールの理論と法制度」では、敷地コントロールの理論的枠組みを提示するために、敷地の関連事項を、様々な観点から分析した。まず、敷地の細分化と敷地の重複使用に代表される敷地問題を一元的に解釈し、開発権空間量のコントロールの重要性を確認した。敷地をめぐる既往の議論を分析し、敷地コントロール的な発想が戦前から存在していたことを確認した。そして、昭和40年以降の建設省関係審議会答申における敷地コントロールの関連する議論を分析し、重要な視点をいくつか抽出した。建築基準法およびその他の法令における、敷地の扱いならびに敷地の関連する事項を分析し、敷地の影響する事項が極めて多い一方で、敷地コントロールの規定が現行法制度では不十分であることが明らかになった。また、敷地コントロールは密度規制との関連が深く、開発権空間量を移動させるような手法を導入する場合には、敷地コントロールの導入が特に必要であることを示した。さらに、敷地コントロールを行う場合に、敷地と建築物に関する公的記録として、敷地台帳が必要とされることを示し、その備えるべき条件と整備の方向について、考察した。結論的に、敷地コントロールの対象として、境界線、規模、形状、公共施設との関係に加えて、建築物のない敷地の用途のコントロールを含めるべきことを述べた。現行法の枠にとらわれない考察によれば、敷地コントロールにおいて、敷地の使用権原との関連を考慮すべきであることが、主張される。そのような意味で、敷地台帳は理論上、敷地・建築物・土地利用単位の用途を記載すべきであると考えられる。 「第5章 最小限敷地規模規制の基準の考え方」では、敷地コントロールの中心的手段である最小限敷地規模規制について、その基準値が導かれた論理の構造を解釈した。わが国の戦前から終戦後までの基準・提案では、日照確保と延焼防止のための隣棟間隔の確保の考え方が確立したものの、低い基準値を導く論理の中に、達観的判断が必要とされる場合があることを明らかにした。現代の基準・提案では、敷地内の緑の量を考察したものが登場し、居住者の意識との関連を重視するものも登場している。さらに、土地区画整理事業の過小宅地・借地の基準地積の定められた過程を分析し、戦前の議論をふまえて定められたことと共に、区切りの良い数値として採用された100m2がその後に大きな影響を及ぼしたと考えられる。 「第6章 敷地コントロールの実例」では、第4章の分析を受けて、わが国の限られた敷地コントロール手法の実例を分析した。まず、開発許可や、法令に基づかない宅地開発指導要綱等による敷地コントロールは、市街地基盤を整備する段階にのみ、有効な方法であると考えられる。建築基準法第50条に根拠を持つ、茨城県による「筑波研究学園都市敷地条例」の運用について、敷地台帳と最小限敷地規模規制の先進的事例として分析し、その効果と問題点を考察した。「尼崎市住環境整備条例」も、地方公共団体の条例で最小限敷地規模規制を定めており、今後の運用状況が注目される事例として、紹介した。建築基準法等に根拠を持つ建築協定と地区計画は、計画的に基盤整備された市街地の敷地ならびに住環境の維持に有効な制度であり、現在の適用対象が、郊外戸建住宅団地等に限られていることがわかった。郊外戸建分譲住宅団地の建築協定と地区計画の住民評価の分析結果では、分譲後間もない地区での、敷地関連の規制内容が、住民に支持されやすいことが示された。地区計画については、技術的な検討課題がいくつか存在する。第6章の分析では、第4章で提示した敷地コントロールの理論的枠組みのごく一部分しか、現行の制度で実現していないことが明らかになった。 「終章 敷地問題の構造と敷地コントロール」は本研究のまとめである。敷地問題の解決のためには、究極的に敷地境界線の変更のチェックが必要とされることを再確認し、敷地コントロールの要素の理論的見取図を示し、市街地の種類と局面に応じて現行敷地コントロール手段の有効性が異なることを示した。また、敷地コントロール制度の整備について、短期的には現行の建築協定制度や地区計画制度の積極的運用が、長期的には敷地台帳の整備が必要であると考えられる。本研究では、中高層集合住宅の敷地に関する固有の問題の考察をほとんど行わなかったが、残された課題である。さらに、本研究の枠外であって現行法制度では対処できないものの、建築物のない敷地の用途のコントロールと、敷地の使用権原の確認との連携とが、重要な検討課題として残されている。 |