■建築研究報告

旧都市計画法の成立過程

渡辺俊一

建築研究報告  No.122,  1989  建設省建築研究所


<概要>

  本稿は,『旧都市計画法の成立過程』の題名のもとに,比較都市計画研究の立場から,欧米近代都市計画との接点に着目しつつ,旧都市計画法(大正8年,以下「旧法」という)の成立過程を解明したものである。

  序章「日本近代都市計画の成立背景」では,同法の成立背景をさぐるため,19世紀末から20世紀初頭にかけての欧米近代都市計画の世界的伝播と,それを受け止めた大正期のわが国都市計画界の事情とを論じている。

  第1章「片岡安の『都市計画運動』」では,同時期のパイオニアの1人で,欧米近代都市計画の紹介者といわれる建築家・片岡安の役割を分析し,旧法制定の原動力となった都市計画調査会の設立に至る,彼の運動経緯を明らかにする。

  第2章「片岡安の都市計画論」では,彼の理論の原典とされる米人ルイスの都市計画論からの影響関係を分析し,片岡のそれは「市区改正+建築条例」図式による「古い」都市計画論であったことを論証する。

  第3章「都市計画調査会における旧都市計画法案の成立過程」では,他のパイオニア・池田宏の「新しい」都市計画論が,都市計画調査会において法案として煮詰まっていった過程を,同調査会の議事録と池田宏旧蔵図書中の発見資料とから跡づける。しかしながら,こうして法制化された旧法は,一面ではその前身たる市区改正と大差ないものに終わった点をも明らかにする。

  第4章「『大阪市街改良法草案』の意義」では,旧法と市区改正との連続性を跡づけるため,その中間項として「大阪市街改良法草案」を位置づけ,同草案が,もう1人のパイオニア・関一をはじめとする大阪市当局の市区改正準用運動の中で形成され,その動きに促されて内務省が旧法制定に至った事情を解明している。

  終章「旧都市計画法のねらいと成果」では,以上の議論を受けて,旧法のねらいは結局どの程度,構成されたかに関して史的評価を試み,全体のまとめとしている。

  なお,関連資料として,付録1「建築学会における建築法規の編纂と運動」,付録2「資料『大阪市街改良法草案』」を巻末に収録している。


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