■建築研究報告 |
内装材の燃焼拡大を含めた多層ゾーン建物内煙流動予測モデル 西野 智研、鍵屋 浩司 建築研究報告 149(2021(令和3年) 2月)
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<概 要> |
中高層建築物を木造で設計する事例が増加する中,内装にも木材を活用することへの関心が高まっている.一般的に,壁や天井の内装に可燃性材料を用いることは,火災の成長を著しく早め,在館者の避難を困難なものにすると考えられてきた.しかし,近年に国内外で実施された実大火災実験は,内装の一部にしか木材を使用しない場合や大きな空間の内装に木材を使用する場合には,火災の成長がそうでない場合に比べて緩やかになることを示した.これに対し,我が国の性能的火災安全設計の実務では,木材を貼る部分の位置・面積や空間の大きさによらず,一律に厳しい設計火源の下で避難安全性を検証することが多い.こうした扱いは内装の木質化に対する過剰な制約となっている.
本予測モデルは,木質内装空間で火災が発生した時の避難安全性を合理的に評価するために開発されたもので,内装材の燃え拡がりによる火災成長と非火災室を含む複数室間の煙流動を一体的に解析可能な非定常の火災モデルである.本モデルが設計実務で利用されてきた従来のものと異なる点として,①内装材の熱物性と表面温度から計算される上方,側方,下方への燃え拡がり速度に基づいて,時々刻々と変化する内装材の燃焼領域を追跡すること,②多層ゾーンの概念に基づいて,建物内の各空間の温度等の変化を予測すること,すなわち,建物内のいずれの空間も,気体の状態が一様で水平な境界面により明確に分離された多数の層により満たされると仮定すること,等があげられる.本モデルでは,火源条件の他に,火災室の可燃性内装材を貼る範囲の形状,可燃性内装材の厚さや熱物性および単位面積あたりの発熱速度の時刻歴を指定することによって,火災室内全体の発熱速度や各空間の気体温度等の鉛直分布を時系列に予測することができる.また,避難安全検証に用いるための煙層高さと煙層温度を各空間の気体温度の鉛直分布から決定する.
本報告では,まず,開発した予測モデルの概念を述べる.次に,過去に実施された複数の実大火災実験の再現計算を行い,計算結果を実験結果と比較しモデルの予測性能を検証した内容を述べる.再現計算は,内装を部分的に木質化した区画の燃焼拡大実験を始め,多層ゾーンモデルの基本的な予測性能を調べるため,大規模吹き抜け空間の煙降下実験や複数室間の煙流動実験についても行っている.さらに,本モデルを設計実務に用いるための参考として,木質内装空間の仮想プランに適用した内容を述べる.付録として,本モデルに基づいて解析を行うために作成した計算プログラムの入出力マニュアルを添える.
計算プログラムの配布について |
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