■建築研究報告 |
「建築物の浸水対策案の試設計に基づく その費用対効果に関する研究」 木内 望、中野 卓 建築研究報告 No.153(2023(令和5年)1月)
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<概 要> |
近年の水害の頻発化・激甚化に伴い、氾濫を前提とした都市づくりや建築分野における対応の必要性が増大している。洪水被害を減らすための取り組みは、これまでどちらかと言えば土木分野での課題、あるいは限られた地域における伝統的な課題だと捉えられてきており、都市計画や建築分野における現代的な研究課題としては、あまり扱われてこなかった。しかしながら、これからの気候変動を踏まえた「流域治水」の考え方の中にも、浸水可能性の高い地域での住まい方の工夫や建築物の対策、建築・土地利用の規制・誘導などが視野に入ってきており、社会的要請の高まりとともにいくつかの取り組みが始まっている。
一方、こうした取り組みについて各場所において何を目標に、どのレベルの対策を行うべきかについては、ハザードマップや浸水想定区域図を所与の条件とする以外の方法は明らかではない。水防法に基づく洪水浸水想定区域図等においては、極端な数値が都市部の広い範囲で示される場合もあり、前提として現実に用いるには難がある。そこで、浸水リスクのある地域での都市の土地利用とその誘導策のあり方を探るには、建築・敷地レベルでの水害対策について立地場所の浸水リスクを踏まえた費用対効果を追究することが必要と考えた。一方で、建築物や建築行為には、さまざまなタイプがあり、それぞれにおいて浸水対策を行う場合のハード及びソフト上の課題も異なることが想定される。そこで本研究では、@木造戸建て住宅を新築する場合、A既存の分譲マンションを改修する場合、BRC 造建物の1階に事業所が入居する場合の内装等工事(インフィル)の場合、の3つの場面を想定して浸水対策案のモデル的な検討を行った。各々について基準となる通常の設計案を設定した上で、これに対して浸水対策を施した設計案を何通りか検討した上で、各案について建築コスト等の試算を行った。さらに、費用として浸水対策にかかわる追加的な建築コスト等、効果として浸水対策に伴う建築(含設備)及び家具・什器・商品等の被害(原状復旧費用)の低減額を計上し、浸水頻度も考慮した上での費用対効果を算定した。
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